昨シーズン、WTAツアーが開幕して、ファンが最初に驚いたことと言えば、アリナ・サバレンカのサーブが全く入らなくなってしまったことだろう。開幕2試合で39本のダブルフォルトを犯し、アンダーサーブで騙し騙し試合をこなしていた彼女は、どのようにスランプから脱出し、全豪オープンで優勝することができたのか?今回は、Tennis.comの記事を元に、サバレンカが経験した紆余曲折のストーリーに迫って行く。
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サバレンカがした英断とは?
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全豪オープンの準決勝、マグダ・リネッテに勝利した後に、サバレンカは記者会見で次のようなコメントを残した。
「正直に言うと、(プレシーズンの間に)もうメンタルコーチの助けを借りないと決めた。自分以外、誰も助けてくれないと知ったから…。そう、もうメンタルコーチはチームにいないんだ。私が自分自身のメンタルコーチなの」
サバレンカがメンタルコーチから独り立ちをした決断は、多くの人にとって間違いだと思われるかもしれない。しかし彼女は、トップ選手がメンタルコーチの分析を知ることが当たり前となっている近年において、少数派とも取れる珍しい決断を実行し、結果的に全豪オープンを優勝できたのだから、彼女の決断は正しかったと言える。
そして、サバレンカの英断はこれだけではない。エマ・ラドゥカヌが、取っ替え引っ替えにコーチを変更していることからも分かる通り、まるでテニスコーチが消耗品のように消化される風潮の中で、サバレンカはチームに忠実であり続けた。彼女とコーチの信頼関係は厚く、後に言及するが、サバレンカはコーチの辞職を引き止めるために説得した過去も持つのだ。
自分に自信が持てなかったサバレンカ
サバレンカの全豪優勝で感極まるコーチのドゥブロフ。実は彼、昨年のシーズン開幕からわずか2試合で39本のダブルフォルトを記録するなど、深刻なスランプに陥ったサバレンカに責任を感じて「もう自分は君に何も与えることはできない」と自ら関係解消を申し出ていたらしい(1/2)pic.twitter.com/xVacfvDxWB
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メルボルンで繰り広げられたサバレンカの武勇伝は、彼女が自信喪失を乗り越える感動的なストーリーとなった。恵まれた体格を持つ彼女は、テニスの能力値をAで例えるならば、AAサーブ、AAフォアハンド、AA運動能力、AAうなり声、AA性格を備えているが、これらを活かすために必要なメンタルはせいぜいB程度である。トップ選手であるのにかかわらず、自分に自信が持てないタイプの人間なのだ。サバレンカは記者団に向かって、以下のようにコメントしたことがある。
「私はファンにサインを欲しがられると、いつも変な感じがするの。『なぜサインを求めるの?私は何者でもないのに』ってね」
2022年シーズン初頭、このサバレンカの厳しい自己評価は正当化されてしまった。サーブイップスとなってしまい、本来は大きな武器であるはずの大砲のようなサーブは、コントロールが失われボックスからはみ出した。アデレードでの開幕2試合では、39本のダブルフォルトを記録し無残にも敗れた。
全豪オープンでは3勝を挙げたものの、テニスファンにとって、苦しい顔をしながらアンダーサーブを放つサバレンカの姿は、見るに堪えなかった。それは、彼女を指導するコーチのアントン・ドゥブロフも同じで、サバレンカによれば、数週間後のドーハで彼から次のように打ち明けられたらしい。
「どうしたらいいのか分からないんだ。君を手助けできる新しいコーチを探した方がいいと思う」
普通の選手であれば、コーチの泣き言を真摯に受け入れて、次のコーチを探す場面だ。しかし、サバレンカは決して聞き入れなかった。
「あなたのせいじゃない。私の何かが原因なの。私たちはもっと強くなることができる」
苦境に立たされている選手が、自分の実力不足を認めることほど難しい事はないが、サバレンカにとってこれは大きな収穫となった。彼女の覚悟を知ったコーチ陣は、人脈を駆使してバイオメカニクスの専門家を探し出し、サバレンカのサーブを総合的に分析してみる事にしたのだ。
サバレンカが得た怪我の功名
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しかし、イップスの克服は、技術的な理由が特定できないことが多いため、解決には時間がかかる。パニックになったり、否定的になったりすることも多い。サバレンカは当時の状況を、次のように振り返っている。
「私はただ『お願い、誰かこの**みたいなサーブを直すために力を貸して!』って感じだった。汚い言葉を使ってしまって申し訳ないけど、本当にこんな感じだったの」
スランプを抜け出すために猛練習したサバレンカは、今となってはこの試練に耐えたことがとても幸せだったと語っている。この試練に耐えたことで、これまで見逃してきた『平常心』というものを、あらためて認識することができたからだ。元々は爆発的な性格で、しばしば無謀な作戦を実行してしまうような感情の不安定さを持ち合わせていたが、今は冷静な判断ができるようになったことを実感しているようだ。
「過去にグランドスラムの準決勝で3回負けているのは、コートの上で落ち着いていられなかったせいなんだ。やりすぎちゃったの。スラムをどうしても取りたかったから、焦っていた。すごく緊張していたんだ」
「大声を出したり、いろいろなことをやっていた。だけど今は、コート上で少し落ち着けるようになった。私のプレーに欠けていたのはこれだったんだと、自分でも思っているよ」
サーブスランプを抜け出すために努力をしたことで、メンタルの安定性という怪我の功名も手にしたサバレンカ。今後も彼女は、一歩ずつ確かに成長を続けて行くだろう。もしかしたら、2つ目のグランドスラムタイトルも、すぐそこに迫って来ているのかもしれない。
(画像=https://twitter.com/AustralianOpen)