【全豪オープン】バーティが劣勢を覆すためにとった奇策は自分の必殺技を封じることだった。

 

2022年の全豪オープン、女子シングルスの決勝戦は、第1シードのアシュレイ・バーティが、第27シードのダニエル・コリンズを相手に6-3 7-6(2)で勝利した。今回は壮絶な戦いとなったこの試合を振り返っていきたい。Tennis.comが報じている。

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バーティの完璧なはずだった戦術にあったわずかな”綻び”

ロッド・レーバー・アリーナの観客は、緊張しているのか急に静かになった。何故なら第2セットに入り、スコアボードには1-5と表示されていたからだ。ハードヒッターであるコリンズは、ボールをコーナーへ力強く打ち込み、ウィナーを取るたびに全力のガッツポーズをしていた。第1セットを無難に獲得し、全豪オープンの優勝トロフィーに片手をかけていたように見えたバーティは、プランBを見つける必要があった。

シーズンが始まってから、今までにバーティは、戦術を変える必要性が全くなかった。理由は明確で、彼女はこれまでに10試合を戦ったのにも関わらず、わずか1セットしか落としていないほど、圧勝に次ぐ圧勝だったからだ。バックハンドをクロスコートにスライスし、フォアハンドを逆方向にドライブし、サーブでフリーポイントを獲得する。バーティが得意とするこの戦略は、シンプル故に誰も対応することができなかった。

しかし、6-3で第1セットを獲得し、タイトルまであと最短で6ゲームというところで、彼女の綿密に練り上げられたプランのどこかが誤作動を起こし始めた。ここまで鉄壁を誇ってきたサービスゲームで、フォアハンドを3回もミスし、コリンズにブレイクされてしまったのだ。その後、ブレイクバックのチャンスもあったが、決定的なオープンコートへのボレーをみすみすと外してしまった。

コリンズの強打を受けて戦術をシフトしたバーティ

逆に言えばコリンズは、この時にバーティがわずかに開けたドアの隙間に、指をねじ込むことに成功した。クロスコートへの強打をポイントとして、キルショットを量産し、今大会で猛威を奮っていたバーティの世界一正確なスライスを、両手打ちの強力なバックハンドで強引に退けたのだ。コリンズは、他の選手がどうしても突破できなかった難関を、自慢のハードヒットで見事に通過して見せた。

劣勢に立たされたバーティは、この時のことを以下のように振り返っている。

「1-5になってからは、もう少しアグレッシブに攻めようと思った。万が一、第2セットが取れなくても、3セット目に突入した時の勢いをつけるために、いくつかの戦術を調整したの」

バーティが変更した戦術とは、誰もが予想できなかったものだった。何故なら、彼女の必殺技でもあるスライスの打つ回数を減らすという奇策だったからだ。バーティはコリンズのオフェンス力に対抗するために、スライスでラリーをニュートラルに戻すのではなく、できる限りフォアハンドに回り込んでカウンターをするために走り回った。そして、結果的にそれが功を奏した。

「リードされていた時には、より積極的にフォアハンドを使うことができて良かったよ。フォアハンドを打つ頻度を増やし、足を使ってハーフチャンスをものにしようとしたんだ。個々のポイントの結果よりも、試合そのものの流れを変えようと努力した」

このバーティの戦術のシフトは、スタッツにも明確に表れている。コリンズは試合を通して17本のウィナーを獲得したが、バーティはこれを超える30本のウィナーを獲得した。普段、強打をあまり見せないバーティからすると、これは珍しいデータだ。

普段、感情を見せないバーティが見せた咆哮

完全に息を吹き返したバーティは、第2セットのタイブレークを優位に進め、マッチポイントではドロップショットとパッシングショットのコンビネーションを打ち込み、地元のファンを沸かせた。常に感情がコントロールされ、滅多に熱くならないタイプのバーティが雄叫びを上げる姿には、鳥肌が立った人も多いだろう。

「ちょっとシュールな気分だった。何をすればいいのか、何を感じればいいのか、自分でもよくわからなかったけど、少しだけ感情を出すことができたの。会場に集まった皆と一緒に優勝を祝えるなんて、今夜に感じたエネルギーは最高だった!」

3つ目のグランドスラムタイトル獲得、加えて異なる全てのサーフェスでグランドスラムを優勝したレジェンドなったバーティは、今後の女子テニス界を代表する選手としての地位を確立した。しかし、それにも関わらず、彼女は勝利に対して謙虚だ。

「正直なところ、私はチャンピオンたちの仲間入りをしたとは思っていないよ。私はまだ勉強中で、自分の技術に磨きをかけようとしているんだから」

バーティほど全豪オープンにふさわしい女王はいないだろう。彼女は私たちに、テニスには体格差は関係なく、ひたすらなハードワークでテクニックを磨き続ければ、世界一になれるとその身で証明してくれた。バーティの偉業は今後も語り継がれていくことだろう。

(画像=@AustralianOpen