2022年全豪オープンの決勝で、ラファエル・ナダルがダニール・メドベデフを破って優勝したことは、まさに歴史的な出来事であり、誰もがナダルの偉業を称えた。しかし、この試合の影には、偉大なプレーヤーへのリスペクトが欠けていた部分もあり、考えさせられる面も持ち合わせていた。sportskeedaが報じている。
【関連記事】審判へ暴言を吐いたメドベデフにマッケンローが言及。「トラッシュトークは好きだ」
メドベデフは子供の頃からの夢を見るのをやめた
この投稿をInstagramで見る
メドベデフは試合後の記者会見で、テニスプレーヤーとしての抱負の変化について長い独白を始めた。その独白で、彼は何かに幻滅しているように見えた。そして最後には「子供の頃からの夢を見るのをやめた」と語った。
「若い世代はもっとうまくやるべきだとか、若い世代にはもっと強くなってほしいというような話があったのを覚えているよ。だから、彼らに苦戦を強いてやろうじゃないか、と頑張ってきた。でも、これらのビッグマッチでコートに立っても、僕に勝ってほしいと思っている人は見かけてこなかった」
「ロシア人なのが問題なのかもね。ロシアのテニスは少しの間、落ち込んでいたから、他の国の選手を応援したくなる気持ちも分かるけど」
この試合で、ナダルが良いプレーをするたびにロックスターのような声援を受けていたのに対し、メドベデフは最初から最後までブーイングを浴びせられていた。
例えば、彼がサーブを打つ間には、観客達から「Tsss,Tsss…」という気に障るような音が発せられていて、試合の中盤以降は、まるでメドベデフ以外の人間全てがナダルに味方しているような空気感だった。
試合中のワンシーンでメドベデフを評価するのは間違い
この投稿をInstagramで見る
ここまでの話を聞いて、ある選手の名前が思い浮かんでくるかもしれない。そう、ノバク・ジョコビッチだ。彼は過去10年間、ラファエル・ナダルやロジャー・フェデラーとの試合で、メドベデフと同じような待遇を受けてきた。悲しいことにも、メドベデフは次世代ベースライナーとしての称号だけでなく、テニス界のヒールとしての役割も引き継ぎつつあるのだ。
ジョコビッチやメドベデフがヒール役になってしまう理由として、彼らの強靭な精神力が挙げられる。実際、特にメドベデフは、観客のブーイングを力に変えられるタイプの選手であり、ファン達からすれば、彼らの心が傷つくことなど想像もできないだろう。
メドベデフは、2019年の全米オープン3回戦で、自身に向けて激しいブーイングを行なっていた観客たちに向けて「今夜寝るときに、あなた達のエネルギーのおかげで、僕が勝てたことを思い出してほしい」と発言したことがある。彼のメンタルの強靭さはツアー屈指だ。
しかし、あなたは、ジョコビッチやメドベデフが、ブーイングや罵声を浴びる状況に置かれ続けることが、どれほど辛いことなのか考えたことはあるだろうか?ネガティブな感情を、カンフル剤として昇華してプレーできる性格を持っているからと言って、彼らにリスペクトを与えないことは、果たして正しいことなのだろうか?
確かに、ジョコビッチもメドベデフも、コート上でのマナーを守るような選手とは言えない。イライラしてラケットを叩きつけたり、審判と口論になったりする姿は、決して応援したくなるヒーローの理想像とは程遠い。実際のところ、メドベデフの独白が世間に広まってからの一般的な反応は「彼自身が招いたことだろ?」という意見が大半だった。
しかし、物事には必ず多方向からの視点が存在する。メドベデフは本来、ガンと闘病しているプロテニスコーチのシュナイダー氏を支援するために、ラケットオークションに参加してたほど心優しい性格の持ち主だ。試合で熱くなって犯してしまった間違いを、1つのシーンとして切り取り、それだけで彼を評価するというのは間違いではないだろうか?
選手と観客のサディスティックなやり取りは、全てのスポーツの魅力でもあり、もしかしたらテニス人気を支える要因の一部とも言えるかもしれない。しかし、メドベデフが観客のリスペクトに欠けた行為のせいで「夢を見るのをやめた」と宣言した今、私たちは彼らのプレーを観戦できる幸せを、じっくりと再認識するすべきなのかもしれない。
私たちは、純粋な気持ちで選手をサポートできているのだろうか?今回のメドベデフが受けた失望については、我々テニスユーザーが真摯に受け止めるべき問題だと言える。
(画像=medwed33)