先日ラファエル・ナダルは、アブダビでのエキシビジョンマッチからスペインへ帰国した後に受けたPCR検査で、コロナウイルスに感染していることが発覚してしまい、来年の1月17日に開幕を控えている全豪オープンへの出場が危ぶまれている。
しかし、長年ナダルを追いかけてきたファンからすれば、彼が全豪オープンに出場する度にトラブルに見舞われていることは慣れっこのはずだ。今回は、これまでにナダルが全豪オープンで経験してきたあらゆるトラブルを特集していきたい。
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2006年:足の裏に先天性の怪我が発覚し棄権
2005年のナダルの活躍は凄まじかった。モンテカルロ、ローマ、モントリオール、マドリードと4つのマスターズで優勝し、グランドスラムでは自身初のローラン・ギャロスでのタイトルを獲得した。赤土の王者が世界を激震させた初めての年と言えるだろう。しかし、マドリードでイワン・リュビッチを倒した後、先天性である足の怪我を抱えていることが発覚。世界中のファン達から、全仏で倒したフェデラーと全豪で再戦を果たすことを熱望されていたが、その期待に応えることが出来ず無念の棄権をすることとなった。ちなみに、この時に抱えた足の裏の怪我は、今現在も治っておらずナダルを苦しめている。
2007年:ゴンザレス戦で臀部に故障を抱える
前年の屈辱を晴らすべく、マハラシュトラとシドニーのトーナメントで万全の調整を行い全豪オープンへ出場を果たしたナダル。しかし、彼はまたもや本来のポテンシャルを発揮できずに全豪オープンを去ることとなる。アンディ・マレーとのフルセットマッチを乗り越え、ベスト8まで勝ち進んだナダルは、当時ツアー最強のフォアハンドを持っていたフェルナンド・ゴンザレスにコートの隅から隅まで走らされ、結果的に臀部(お尻の部分)を故障させてしまった。そこに情熱に溢れたいつものナダルの姿はなく、試合もストレートで敗れた。
2010年:右膝を故障しマレー戦を棄権
2009年の全豪で悲願の初優勝を遂げ、オーストラリアから長年受け受け続けた呪いは解けたかのように思えたが、この年もナダルは全豪オープンで故障を抱えることとなる。大会の内容としては、ドロー運に恵まれたこともあり楽々とベスト8まで進出。当時世界ランク4位に付けていたアンディ・マレーと準決勝進出をかけて対戦したわけだが、今度は右膝を故障し2セットダウンまで追い込まれたところで試合をリタイア。ナダルはその後、この怪我の影響で約2ヶ月間もの間リハビリに取り組むこととなる。
2011年:フェレール戦でハムストリングの断裂
この年のナダルは全豪オープンで優勝する気力が例年よりも強かった。グランドスラム4大会連続優勝の記録がかかっていたこともそうだが、この頃のメディアからは彼と全豪オープンの相性の悪さを”準々決勝の呪い”とまでネーミングされていたため、本人はこのイメージを払拭させたかったのだろう。だが、この年もナダルは準々決勝で敗退することとなる。同胞のダビド・フェレール戦でハムストリングを断裂してしまったのだ。この時、当時コーチを務めていた彼の叔父でもあるトニー・ナダルが「棄権しろ!」とファミリーボックスで喋っていたのは有名な話だが、ナダルは最後まで戦い切りフェレールに惨敗。またもや約1ヶ月間ツアーを離れることとなった。
2013年:胃の感染症により棄権
この前年となる2012年の全豪オープンでは、決勝戦でノバク・ジョコビッチと5時間53分の激闘を行い惜しくも準優勝となってしまったが、間違いなく彼のキャリアの中でもベストマッチとも言えるクオリティだった。しかし、その後のウィンブルドンで転倒し、膝の故障を理由にシーズン後半をほぼ全休。そのため、2013年の全豪オープンは故障明けのナダルが復活するのでは?と大きな注目を集めていた。だが状況は一変。ナダルは胃の感染症にかかってしまい、調整が間に合わず棄権。彼の復帰は更に1ヶ月遅れることになった。
2014年:背中の故障でワウリンカに惨敗
この年の全豪オープン決勝は、テニス史に残る記録的な試合だった。何故なら、当時世界ランク8位と高順位に付けていたとはいえ、ワウリンカが29歳という年齢で初めてのグランドスラム制覇を達成したからだ。そして当時、彼が決勝戦で対戦していたのはナダルだった。ナダルは胃の感染症を患った前年と違い、完璧なコンディションで全豪オープンへ参加。準決勝では最大のライバルであるフェデラーを完璧にノックアウトし、誰もがナダルの優勝を予言していたものだ。しかし、ワウリンカとの試合が進むにつれて極端にサーブのクオリティが低下していき、なんとかストレート負けは逃れたものの、試合後には背中の故障が発覚することとなる。
2018年:右足の腸腰筋に問題を抱えチリッチ戦を棄権
ナダルが抱えている全豪オープンの呪いも数年間は発動せずにいたが、この年の準々決勝で彼はまたもや棄権することとなる。原因は、前年のATPファイナルズで負傷した右足の腸腰筋の負傷の悪化だ。しかも対戦相手は全盛期を迎えていたマリン・チリッチであり、厳しい戦いになることは誰にでも想像することができた。ナダルはこの試合を懸命に戦い最後まで勝利を目指していたが、5セットに突入したところでリタイア。途中まではセットカウント2-1とリードしていたこともあり、本人としても歯痒い結果で終わってしまうことになった。
ナダルはもう一度、全豪オープンを優勝できるのか?
筆者としては、ナダルが今後に全豪オープンを優勝する確率はかなり低いと考えている。理由は明確で、ナダルの肉体の衰えと新世代の成長のバランスが大きく崩れてきているからだ。
先述してきたことからも分かると思うが、ナダルは先天性の足の怪我に加え、背中や膝を壊しやすい体質を持っており、これまでに何度もツアーを離脱してきた。そして、近年まではBIG3がランキングのトップを占める独裁政権であったこともあり、ある意味ベテランたちによって若手の成長が妨げられている節があった。グランドスラムの準決勝枠がベテラン達で埋め尽くされる時代が長く続いていたが、それも終わりを迎えようとしているのだ。
もはや、若手達を止める障害は34歳となったジョコビッチしかおらず、今年のUSオープンでメドべデフが優勝したように、これからは他の若手達がビッグトーナメントで勝ち進む経験をどんどん積んでいくこととなる。「テニス選手の本質は技術ではない。セレナやジョコビッチが持っているような、なんでも成し遂げられると信じる自信だ」これは、過去にセレナのコーチであるムラトグルーが言っていたことだが、今は若手達がその自信を手に入れる時期をやっと迎えたと言える。
もちろん、ナダルの強さを甘んじるわけにはいかない。もしかしたら今後、スポーツ医療技術が急激に発展して、ナダルの足の怪我や、将来の怪我を防ぐ何かしらの治療技術が出来る可能性もゼロではないだろう。ただ、彼の足元には間違いなく若武者達の影が迫ってきている。ATPはどのような未来を歩んでいくのだろうか?来シーズンも目が離せない。
(画像=rafaelnadal)