先日、ATPアワードの受賞者が発表され、テニス選手にとって最大の栄誉の1つであるATP Fans’ Favorite賞(ファンのお気に入り選手賞)は19年連続でロジャー・フェデラーが受賞することとなった。この賞は2000年から導入されたものだが、歴代でフェデラーを覗くとスタボ・クエルテンとマラット・サフィンしか受賞歴がないのは驚きの事実だ。
しかし、今のフェデラーの膝の状況や年齢を考えると、このATP Fans’ Favorite賞に新たなる名前が追加されるのもそう遠くない未来に実現する可能性が高い。そこで今回は、今後ATP Fans’ Favorite賞を受賞する確率の高い未来の受賞者達を展望していこうと思う。
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ラファエル・ナダル&ノバク・ジョコビッチ
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フェデラーが引退した後に、ATP Fans’ Favorite賞を受賞する最有力候補となるのは、やはりこの2人だろう。何故なら、BIG3の一角として長年降臨し続けたナダルとジョコビッチには、とても強固なファンベースが構築されているからだ。
ATP Fans’ Favorite賞は、ATPアワードの中でも唯一ファン投票のみで決められる賞だ。つまり、長年継続して活躍している選手には、幅広い年代の層から支持を集めることが可能であり、世界ランキングトップ10在位記録を持っているナダルと、世界ランキング1位在位記録を持っているジョコビッチに敵うような選手は存在しないだろう。
しかし、万人から好まれる性格をしているナダルに対して、ジョコビッチには多くのアンチが存在していることは懸念点だ。彼が嫌われてしまう原因としては以下の3つが挙げられる。
ナダルとフェデラーは長年のライバルであり、世界中のテニスユーザー達はこの2人のどちらかがテニス界のGOAT(史上最高の選手)になることを期待して、2006~2008年のウィンブルドンで芝の王者フェデラーに挑む挑戦者ナダルという構図を見て大いに熱狂した。しかし、そこにヒョコッと顔を出したのがジョコビッチだ。彼は何食わぬ顔で、ファン達がGOATと認め始めていた彼ら2人の記録をいとも簡単に打ち破り、もちろん本人には全くそんな意図はないはずだが、そんなジョコビッチを見たファン達からすれば熱いライバル関係に水を差したように取れるのだ。
加えてジョコビッチは行動で示すタイプであるが故に、しばしツアーの空気感に合わない活動を行ってしまう節がある。ツアー大会の拡充を重視しているATPに対抗するように、ランキング下部選手の賞金底上げを目指す非営利団体PTPAを設立したり、コロナ自粛中にテニスファン達を喜ばせるために開いたチャリティー大会でパンデミックを引き起こしたり、今年の全豪オープンではバブル内に閉じ込められた選手達の待遇の優遇を訴える手紙を大会運営へ送ったりと、本人は良かれと思った行動が裏目に出ていることが多く、これが彼のアンチを増殖させている一番大きな理由だ。
ただ、それを踏まえてもジョコビッチが世界から大きな人気を得ていることは間違いない。フェデラーが引退した後のテニス界のアイコンは彼とナダルになることはほぼ間違いないだろう。
ドミニク・ティエム
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では、ナダルとジョコビッチが一線を退いたら誰がアイコンになるのだろうか?可能性が高い内の1人はこのドミニク・ティエムだ。理由は簡単で、彼がとてもフレンドリーな性格であり、いくつかの環境改善運動や社会運動に参加していることもプラス要素だ。
テニスというスポーツは孤独であり、中にはシャラポワのようにツアーで戦う相手とは馴れ合わないという教訓を掲げるような選手もいるが、ティエムは全くその逆で多くのツアー選手と仲が良い。彼のSNSを覗けばよく分かるが、そこにはズベレフやシナー、更には女子選手であるムグルザとのオフショットもあり、彼がどれだけ社交的な人間なのかが伝わってくるはずだ。
また、彼は今年の全豪オープンをリサイクル素材で作られたウェアを着て出場し、環境問題の重要性をテニスユーザーに伝えるという大役を務めたこともある。こういった彼の活動はテニスを超えたスポーツ界の多方面で評価されており、彼がファン達から支援される理由の1つとなっている。
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常にハードショットを繰り出すことが原因で、手首に慢性的な怪我を負っていることは懸念点だが、故障を克服し長く活躍することさえできれば、ティエムがATP Fans’ Favorite賞を受賞する日も来るかもしれない。今後が楽しみだ。
ダニール・メドべデフ
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メドべデフは自分のスタンスを貫くタイプの選手であり、それが故に巻き起こるファン達とのプロレスが魅力の選手だ。
テニスは暗黙の了解として、選手がプレーをしている間は観客が大声を上げて騒ぐことは許されない。なので、サッカーやバスケットボールといった熱烈な応援歌といったものが存在せず、観客達との交流も比較的に少ないスポーツなのだが、メドべデフはそんなことも関係なく持ち前のユーモアで観客を大いに楽しませることができる稀有な選手である。
例えば、今年のUSオープンで優勝を決めた後に見せた”デッド・フィッシュ・ポーズ”。メドべデフは世界的に人気なサッカーゲームであるウィニングイレブンのセレブレーションを完璧に真似してみせ、アーサー・アッシュスタジアムの興奮覚めやまないファン達をさらに熱狂させた。過去にはツォンガの勝利の舞やモンフィスのXポーズ、若手で言えばティアフォーのThe Silencerなど既にテニス界にはいくつものセレブレーションが存在するが、メドべデフほど派手に観客を沸かすようなセレブレーションは今後も出てくることはないだろう。今年のデビスカップの決勝戦でコートを何度も踏みつけたように、たまにリスペクトに欠けたような行動に走ることもあるが、それもまた彼の魅力と言えるかもしれない。
DANIIL MEDVEDEV !!!!! pic.twitter.com/UoTLmwpVe5
— doublefault28 (@doublefault28) September 12, 2021
しかし、メドべデフには致命的な弱点があり、それはプレースタイルがとても地味なことだ。おそらく今後も凌ぎを削り合うであろうティエムやチチパス 、ズベレフといった新世代の選手達は派手なプレーを好む傾向が強く、粘り強く泥臭くポイントを取っていくメドべデフに彼らを超えるファンベースを築けるのかは疑問だ。今後数年で彼がテニス界でどのようなポジションについているのか、想像してみるのも面白いのかもしれない。
カルロス・アルカラス
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最後はスペインを担う若武者、18歳のカルロス・アルカラスだ。彼には他の選手は持っていないファンからの人気を集める圧倒的なアドバンテージを持っており、それはナダルと同じスペイン出身の若手だということだ。
アルカラスはナダルと同じように謙虚なハードワーカーであり、ジュニア時代から大きな期待を寄せられ自国のレジェンドと比較されてきた。しかもそのプレッシャーに負けず、今シーズンはクロアチアオープンでタイトルを獲得し、2008年に錦織圭が成し遂げた以来の18歳でのツアー優勝を果たした。世界ランキングも自己最高の32位でフィニッシュし、今のところは非の打ち所がないキャリアを送っていると言えるだろう。また、アルカラスのコーチ陣営にはフアン・カルロス・フェレーロという元世界王者が付いており、パワフルなストロークで世界を制した彼の指導を受けることは間違いなく彼に取ってプラスだ。
加えてアルカラスは、今シーズンにフィジカルを重点的に強化し、体重を3キロ近く増やすことに成功した。これはつまり、怪我のしにくい体へ進化を遂げている証拠であり、ツアーで長く活躍するポテンシャルがあることを意味する。フェレーロが言うには、筋肉をつける前は試合後に痙攣することも多かったようだが、今後数年をかけてアルカラスの肉体はピークへと成長していくだろう。
しかし、いくら彼が期待の星とは言え、今後ツアーで成功することが確証されているわけではない。彼の同年代にはロレンツォ・ムゼッティ、セバスチャン・コルダ、ヤニック・シナーといった手強いライバル達が揃っており、さながら2000年代前半にレイトン・ヒューイット、マラット・サフィン、アンディ・ロディック達が鬩ぎ合っていたような戦国時代が再来する予感さえしている。アルカラスは険しいツアートーナメントを生き残ることが出来るのだろうか?彼には是非とも、ナダルのように偉大なキャリアを歩んでもらいたい。
(画像=rogerfederer)
・ナダルとフェデラーのライバル関係に水を差した。
・PTPAという組織を作り、一定の選手達から煙たがられている。
・コロナ自粛の最中にパーティを開き、パンデミックを引き起こした。