Z世代のテニス離れを防ぐ方法がスペインで研究されてて面白い件【テニスは衰退するのか?】

 

集中力が低下している若者のテニス離れを防ぐために、グランドスラムの試合形式を3セットマッチにするべきだという議論はここ数年絶えず行われているが、Z世代と呼ばれる若者達がテニスへ本当に求めているものは何なのだろうか?答えは簡単でそれは”行動に繋がる強い刺激”だ。スペインのテニスサイトpuntodebreak.comに興味深い研究データが載せられていたので、今回はそれを紹介させていただきたい。

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Z世代はスマホでハイライトが見れればそれでいい

グランドスラムの格式を重要視し、3セットマッチ変更案に反対するラファエル・ナダルと、若いファンの集中力がどんどん短くなっている事を引き合いに出し、試合時間の短縮へ賛成するノバク・ジョコビッチ。それぞれが対立した意見を持っていることはすでに有名だが、Movistar+社のテニス部門責任者であるJosé Antonio Mielgo氏の見解によれば、ジョコビッチの意見はあながち間違っていないのかも知れない。

スペインではサッカーに次いでテニスが人気のスポーツだとされている。しかし、Mielgo氏は「今のZ世代が長い試合を見続けるには、よほどテニスに熱心でなければならない」という見解を示しており、その理由は、テニスに限らずスポーツユーザーの大半が「スポーツはハイライトやベストプレーを見れれば充分だ」と考えていることに起因していて、事実テニスのハイライト動画はあらゆるSNSでアップされている。

しかし、世界を代表するスポーツ団体であるATPが、この事に対して何も対策を講じていないわけではない。最もたる例がNext Gen ATP Finalsだろう。2017年から始まった同大会は新規のテニス視聴者にとって魅力的なものにしようと、さまざまな試みを行っている。セット数やウォーミングアップをカットすることで試合時間を短縮したり、ツアーにサービスクロックが導入されたのもこの大会がきっかけだ。また、F1で放送されているドライバーの通信機能付きラジオのように、プレーしているテニス選手が試合中にコーチングを受けれるようにしたのも、観客にとって興味深い試みだと言える。

Z世代はリアルタイムで試合が見れなくても気にしない

 
 
 
 
 
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ATPが試合時間を短縮しようと挑む中、コミュニケーションとオーディエンスの専門家であるサンタナ・ロイス・ポッシュ・バトラー氏は、Z世代のテニス離れの原因を試合時間の長さではなく、人間の注意力散漫さに注目している。彼は、Z世代の人間が長い試合を見続けられないのは、注意力の低下の問題ではなく「若者は分散能力が高い。彼らは強い刺激を求める世代であり、注目を集めるためにばらけたポイントを突くこと難しい」と話している。

例えばZ世代に属する若者達は、パソコン、タブレット、スマホなど、電子機器に囲まれて育ってきた。今では、テニスの試合を観ている時に、一度もスマートフォンを見ない人はいないだろう。グランドスラムを見ながらツイートを投稿したり、Instagramをチェックしたり、友達からのLINEのメッセージに返信したりするのは当たり前のことだ。今やテニスの新規顧客はテレビ放送の前ではなく、ネットワークの海の中に存在している。今後のテニス人気維持のためには、SNSの効果的な運営により、他のスポーツよりもどれだけ上手くZ世代へリーチできるかが課題となってくるだろう。

サンタナ氏はまた、新しい世代がスポーツをあまり見なくなる傾向にあることを指摘しており「スポーツは実践されるものと見なされ始めており、もはやリアルタイムではあまり追われなくなっている。先述した過剰な刺激を求める傾向が原因だ」とも発言している。

ゲーム画面は何時間でも見続けられるZ世代

 
 
 
 
 
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世界的にスポーツの需要が下がり気味な中、逆にeスポーツ大会の存在力は日に日に強まっている。さらに興味深いのは、eスポーツの観客の大半を占めるZ世代が、スクリーンの前で何時間もゲーム画面を見ることに関しては強い集中力を示している事だ。

LVPのプロeスポーツナレーターであるOriol Ruiz氏は「サッカーは最先端のスポーツだし、バスケットボール、特にNBAは世界的にとても人気がある。しかし、伝統的なスポーツでも、ハンドボール、アイスホッケー、水球のように人気がないスポーツもあることは事実だ。次第にeSportsはこれらの競技よりも大きな市場になると考えているよ」と発言しており、テニスというスポーツもeスポーツの波に埋もれないため、新たな観客を呼び込むには、テニスプレーヤー自身が魅力的な存在になることが必須で、コアなファンを作る必要があると言えるだろう。

例えば錦織圭が活躍したことで、日本のテニス人口は激増したが、それは彼に「エアK」という魅力的な必殺技があった側面が大きい。テニスはテレビ画面で見る受動的な刺激がほとんどだが、錦織のように否が応でも真似したくなるような必殺技を持つ選手は、多くの子供達やテニスユーザー達にテニスを実際にプレーをさせたくさせる大きな力を持っている。選手が魅力的だと、eスポーツと同じように受動的な刺激が動的な刺激に変化するのだ。

まとめると、テニスの試合時間の短縮も重要なトピックだと言えるだろうが、これはテニスを魅力的にする上での本質的な要素ではない。若い人たちがテニスを見る時に注目する要素は、選手や試合の重要性と、動的刺激に繋がるような刺激だ。テニスの繁栄にとって最も大事なのは、試合を見た視聴者をどうやってコート上に連れていくか考えることだと言えるだろう。

モンフィスはZ世代の心を掴むのが上手い

 
 
 
 
 
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これは余談だが、すでにテニスユーザーへ動的な刺激を与えようと取り組んでいる選手が存在する。それはガエル・モンフィスだ。彼はeスポーツの大会でもよく使われるTwitchというプラットフォームを使ってテニスに関する番組を作成し、現役のプロの目線で試合をレビューしたり、豪華なゲストを呼んでインタビューを行ったりしているのだ。Twitchはチャットで他のユーザーとリアルタイムで交流できるため、Z世代の若者達と動的かつ密接に触れ合える。今後のテニスに必要なのは、日本で熱いブームを読んでいるVtuberのように、リアルタイムでコミュニケーションが取れるプラットフォームでのコンテンツ配信なのかも知れない。

(画像=iamgaelmonfils)