【データで解明】錦織圭はなぜ「決定セット」最強なのか?ビッグ4時代に埋もれた真の実力を検証

グランドスラム優勝なし。マスターズ1000タイトルなし。四大大会の準決勝進出はUSオープンの1度のみ。ATPランキング4位以内に在位したのはわずか9週間。これだけ聞けば、錦織圭の実力に首をかしげる人もいるかもしれない。

だが、待ってほしい。

ビッグ4という「不運な時代」

錦織のキャリア全体は、ビッグ4——ジョコビッチ、ナダル、フェデラー、マレー——の黄金時代と完全に重なっている。通算の直接対決成績を見ると、ジョコビッチに2勝18敗、ナダルに2勝12敗、マレーに2勝9敗、フェデラーに3勝8敗。4強の牙城を崩すことは、ほとんど叶わなかった。

しかしこれは、錦織の問題ではなく「時代」の問題だ。1985年から1995年頃に生まれた世代の選手たちは、テニス選手として決して力が劣っていたわけではない。ただ、ビッグ4という史上最強の四天王と完全にキャリアが重なるという、どうにもならない不運を背負っていた。この時代に世界3位になることすら、他の時代なら数々の大タイトルを手にできた実力者でなければ不可能だった。

その意味で、錦織圭とワウリンカ、デルポトロらは「記録が地味な偉大な選手」という、テニス史上でも稀な存在として位置づけられる。

決定セット(第3・第5セット)の驚異的な強さ

錦織の名を語る上で、どうしても欠かせない数字がある。それが、決定セット(最終セット)の勝率だ。

例えば、2015年4月の時点で、錦織はそれまでの30試合の決定セットで27勝を挙げていた。実に90%の勝率である。しかもそれは一時的なものではなく、2011〜2012年にも17連勝を含む「30試合で27勝」を記録している。この「30試合中27勝」という水準は、ジョコビッチ、フェデラー、ナダル、そしてマイケル・チャンを含む過去9名しか達成したことのない金字塔だった。

2015年4月時点の錦織の決定セット通算成績は75勝20敗、勝率79%。これはオープン化以降の歴代最高記録だった。2位はビョン・ボルグの75%、3位が当時74%のジョコビッチで、70%を超えた選手は他にいなかった。

その後、負傷の影響を受けながらも、2022年時点での通算成績は149勝57敗、勝率72%。依然としてボルグとジョコビッチに次ぐ歴代3位の数字だ。トップ20相手でも42勝28敗、トップ10相手では25勝17敗、トップ5相手でも13勝11敗——強者を相手にした決定セットでも、錦織の強さは一貫している。

なぜ決定セットで「化ける」のか

2000年以降のATPツアーで、3セットマッチの決定セットを50試合以上経験した選手は120人いる。その中で、第3セットの勝率が2番目に高いのが錦織だ(1位はジョコビッチ)。

さらに興味深いのは、「全体のセット勝率」と「決定セット勝率」の差だ。多くの選手は決定セットでは通常より苦戦する。なぜなら、決定セットまで持ち込む相手は、ストレートで負かせる相手より質が高いからだ。ワウリンカを例に取ると、通算セット勝率63%に対し、決定セット勝率は58%と低下する。これは全21世紀のプレーヤーの4分の3以上に共通する傾向だ。

ところが錦織は、その逆を行く。通算セット勝率65%に対し、決定セット勝率は71%——その差は6ポイントで、これは全選手中断トツの1位だ。2位のデビッド・ゴファンでさえ3ポイント差にとどまる。

実際のポイントデータを分析すると、その秘密が見えてくる。108試合の決定セット前後のデータを比較した結果、以下の変化が確認された。

  • サービスポイント獲得率:第1・2セットの63.0%→決定セットで66.4%(約3ポイント上昇)
  • リターンポイント獲得率:第1・2セットの37.8%→決定セットで40.7%(約3ポイント上昇)
  • ブレークポイント阻止率:第1・2セットの59%→決定セットで68%(約9ポイント上昇)

このブレークポイント阻止率68%という数字は、ジョコビッチが2021年に3つのグランドスラムタイトルを獲得した際の阻止率67%を上回るエリートレベルだ。決定セットに入った瞬間、錦織は文字通り別人のような選手に変貌する。

「たられば」の先に見える真の実力

錦織の物語は、常に「もしも」の連続だ。もしビッグ4の時代と重ならなければ。もし怪我が少なければ(Wikipediaの錦織の項目には「怪我」という単語が30回以上登場する)。もし2014年全米オープン決勝でチリッチが絶好調でなければ。

そして、もうひとつ加えるとすれば——もし錦織が決定セットで発揮するレベルを、試合を通して継続できていたなら。サービスポイント獲得率66%、リターンポイント獲得率41%。これはマレーのキャリア全体の数字に匹敵する。もしこれを常時維持できていたなら、私たちはここ10年間「ビッグ5」について語っていたかもしれない。

タイトル数だけを見れば、錦織圭は歴代トップ100に入る選手ではないかもしれない。しかし、もし「決定セットに入った瞬間にどれだけ自分を高められるか」で偉大さを測るとしたら——彼は間違いなく歴代トップ10に入る。